JRA 馬術&引退競走馬

引退競走馬(世界)
アジア競馬会議とIFARフォーラム

2023年2月14日オーストラリア・メルボルンで、競走馬のアフターケアを促進する国際団体『IFAR:International Forum for Aftercare of Racehorses』主催の第7回フォーラムが、第39回アジア競馬会議(Asian Racing Conference)と並行して開催されました。

アジア競馬会議とは、アジア競馬連盟(Asian Racing Federation)の加盟国が参加して開催される会議です。相互交流・親善・情報交換・競馬の発展のサポートを目的に、競馬産業を巡る動向や今後の課題などが話し合われます。第1回の会議は、60年以上前となる1960年5月に東京で開催。今年は新型コロナウィルス拡大の影響もあり、3年ぶりの開催となりました。35ヵ国から700名以上の競馬関係団体の代表者たちが、ビジネス・セッションに参加しました。

ビジネス・セッションの詳しい内容は、アジア競馬連盟のウェブサイトからもご覧いただけます。

▶︎ https://www.asianracing.org/arc/melbourne2023 

また、IFARとは、2016年に設立された競走馬のアフターケアを促進する団体です。年に1回アフターケアに関心のある方、誰でも参加することができる会議を開催しており、今年の会議には28ヵ国から約200名の参加者がありました。昨年度からJRAもIFARを支援しており、これまでで最大の規模となった事はもちろんのこと、以前は競走馬のアフターケアに関心を示していなかった国からの参加もあり、その関心の高まりを感じています。

下記のリンクからIFARフォーラムのハイライト映像をご覧いただくことができます。

▶︎ https://youtu.be/fYFDs-k6E70 

私は、IFAR発足の準備段階から関わっており、今年のフォーラムの成功は非常に感慨深いものがありました。今回のコラムでは、フォーラムの様子を紹介させていただきます。

リトレーニング・プログラムの視察

今回、初の試みとしてフィールド・トリップが実施されました。

訪れたのは、メルボルン・シティから約50kmのヤラ・バレーにある『スプリング・クリーク・エクイン』。ここは総合馬術選手であり、レーシング・ヴィクトリア認定リトレーナーでもある、サマンサ・セスニック氏とクリス・ハイト氏が運営している乗馬クラブです。実際の引退競走馬を前にレーシング・ヴィクトリアが実施する、引退競走馬に対するプログラムやスプリング・クリークのリトレーニングプログラムなどを見学しました。また、この団体では、以前このコラムでも紹介したレーシング・ヴィクトリアがサポートする『RESET・Program(気質や年齢・故障歴など何らかの理由でセカンドキャリアへの移行が上手くいかない引退競走馬のためのプログラム)』の対象馬も多く受け入れていることが印象的でした。

国の異なる方々との交流やそれぞれの成功事例の共有などは、IFARの重要なミッションです。まだ競走馬のアフターケアプログラムを導入していない競馬開催国関係者にとっては、実際の現場を見て・触れて・感じることで、プログラム導入の決断を後押しするきっかけになったのではないでしょうか。会議室の中とは違い、参加者も非常にリラックスした雰囲気で会話が弾み、質問も多くあり、非常に有益な時間になったと思います。

IFARは競馬を開催する全ての国でアフターケアプログラムが導入される事を望んでいます。

IFARの会長であるダイ・アーバスナット氏は「サラブレッドが世界のどこで競走生活の終わりを迎えようと、そこにその後の馬生があるべきです。競馬業界は、アフターケアプログラムを整備し施行し提供する必要があります」と挨拶で語っていました。

障害馬術選手のジェシカ・ボット氏

競馬業界と乗馬や馬術業界の融合

その後メルボルン・シティに戻りました。午後のプログラムでは、オーストラリア・香港・韓国・アラブ首長国連邦・日本からのスピーカーとパネリストが登壇し、各国でアフターケアがどのように行われているか、近年の大きな進歩やさらには競馬業界と乗馬や馬術業界をより密接にするためのプロジェクトなどが紹介されました。

そのひとつが、オーストラリアの調教師ゲイ・ウォーターハウス氏と共同調教師のエイドリアン・ボット氏が自身の厩舎で行っている『Own After Racing(OAR)』という取り組み。これは現役時の馬主が現役引退後も引き続き所有し、セカンドキャリアへの移行期間中(リトレーニング、リホーミング)の過程や取り組みに参加してもらうプログラムです。

エイドリアンの妻であり、障害馬術選手でもあるジェシカ・ボット氏は次のように語っています。「このようなリトレーニングやリホーミングがあることを知らない、馬主はじめ競馬関係者がいることも興味深いことです。この2つの世界が融合することはワクワクしますし、お互いに必要なものだと思います」

セカンドキャリアへの移行期間を競馬業界がサポートすることにより、お互いの繋がりや正しい理解が深まる。そうすれば馬たちのセカンドキャリアの道がさらに広がるのではないでしょうか。

こちらのプログラムは日本でも導入が可能なのでは?と思いました。

講演とパネルディスカッションの様子はIFARのYouTubeチャンネルでご覧頂くことができます。

▶︎ https://www.youtube.com/@internationalforumfortheaf3252/featured 

また、IFARは世界の引退競走馬に関する話題をまとめたビデオマガジンを制作しており、今回の日本からのトピックとして、RRC(Retired Racehorse Cup)ファイナル大会の様子がとりあげられています。

▶︎ https://youtu.be/z1Qbs8DSBcg (IFAR Video Magazine E2)

継続しなければならない

この10年、世界中の引退競走馬のアフターケアに関する取り組みは、大きく進歩しました。

しかしながら、課題が解決されたわけではありません。資金調達・引退競走馬の供給と需要のバランス・トレーサビリティ・コミュニケーション・・・・残念ながら挙げればきりがないほど未解決な課題が山積みとなっています。だからこそ、サラブレッドに関わる全ての人々で協力し、助け合い、学び合いチャレンジを継続しなければならないと思います。

競馬の中心的存在である、そして私たちの大好きなサラブレッドのために。

Written by

澤井 靖子 Yasuko Sawai

2006 年ダーレー・ジャパン・ファーム(有)入社、繁殖部門に従事。 2015 年より日本でのゴドルフィン リホーミング プログラムや 現役引退競走馬に関する取り組み全般を担当。 2022 年より岡山県真庭市にあるオールド・フレンズ・ジャパンで 引退競走馬たちとの共生を目指し普及活動を行う。