いつも側にいたサラブレッド
馬術選手だった父親の影響で小さい頃から馬と関わってきました。 小学校4年生で初めて出場した馬術競技から始まり、繁殖を学びたくて働いた競走馬の生産牧場まで、振り返ると、ずっとサラブレッドのそばにいるのだと気づきました。 私の馬人生、そこにこだわったり、選んだとまでは言いませんが、サラブレッドの不思議な魅力に惹かれ、ここまで来たのだと改めて自覚しています。 個性豊か、繊細、聡明、忠実、そして美しい。本当に特別な存在! だからこそ、競馬を引退してからの姿も多くの人に知ってほしい、活躍の場を増やせないか、何となく悲観的なステレオタイプを変えたい、 そんな自分に気づき、オールド・フレンズ・ジャパンを手伝っています。
米・オールド・フレンズとオールド・フレンズ・ジャパン
引退競走馬のための団体、オールド・フレンズ・ジャパンは、岡山県真庭市北部の蒜山三座を望む自然豊かな蒜山高原の蒜山ホースパークで2021年4月に活動を開始しました。 現在は、2004年菊花賞(G1)や2006年メルボルンカップ(G1)の優勝馬デルタブルースを始め、13頭の引退競走馬が暮らしています。 私たちが、世界中の引退競走馬に関する取組みをリサーチしてきた中で、とても興味深く、その運営スタイルや成果(頭数や観光資源としての活用)にひときわ目を奪われたのが、ケンタッキー州ジョージタウンにあるサラブレッドのリタイアメント施設「オールド・フレンズ」でした。 2003年、ボストン・グローブ紙の映画評論家であったマイケル・ブローウェン氏が1頭の馬から活動を開始し、現在は240頭もの元競走馬と引退種牡馬を飼養するまでになっています。直接、お話する機会も得て、自分たちの目指すスタイルだと強く感じました。 また、アメリカの引退競走馬サポート団体、サラブレッド・アフターケア・アライアンス(TAA)のステーシー・クラークさんなどの力添えをいただき、オールド・フレンズと私たちとの連携が実現し、「オールド・フレンズ」の名前を使用できることにもなりました。
観光資源となる引退競走馬たち
オールド・フレンズ・ジャパンがまず取り組んだのは、米をモデルとした観光事業としての可能性を確かめることでした。
今年の春から、放牧地で引退競走馬たちの一般公開を開始し、レースや現役の時とは、少し違った様子を間近に見てもらうことで、サラブレッド本来の姿を感じ取ってもらいたいと考えています。
現役の頃、応援していたから!とお気に入りの馬を目当てに来場する競馬ファンがいます。
また、蒜山高原は、年間200万人が訪れる観光地ということもあり、競馬にそれほど馴染みのない観光客の方が「G1馬がいるんだね」と言いながら、写真を撮ったり、興味深そうに眺めています。このような機会を通じて、さまざまな方々に馬たちのことを知ってもらえる、それも引退競走馬、サラブレッドを通じて、それを感じていただけるとしたら…私たちの活動が目指すところです。
サラブレッドのチカラを証明する
早く走る、競馬のレースでその力を発揮するために生産されるサラブレッドですが、他の品種の馬たちよりも、多才で様々な分野でも活躍できるのです。 例えば、乗用馬・競技馬としても、オリンピックレベルの大会に出ていますし、身近な趣味の乗馬のパートナーとなっている馬はたくさんいます。 仔馬の頃から、様々な環境の変化、馴致・育成や長距離の輸送、人混みや騒音、競馬場でのレースを経験しているサラブレッドは、他のどんな品種の同年代の馬よりも人間社会で多くの経験を積んでいると言えます。また、性格やサイズも「サラブレッド」と一括りにできないくらい、実は幅広なのです。 その反面、サラブレッドは、神経質で過敏、急な動き、素早い反応などがあり、扱いづらさを指摘されますが、そのような特性をしっかりと理解して、転用のための適切なリトレーニングを実施することなどで、むしろ望ましいパートナーになれると思います。 実際、その感受性、反応性、知性があることから、メンタル面でトラウマを抱えた人などを癒すセラピープログラムに向いていると評価され、ここ数年イギリス、アメリカなどでは、サラブレッドによる治療プログラムを提供する活動が増えているようです。
馬と人の関係
馬は4000年にも亘って、人間社会でたくさんの役割を果たしてきました。 科学や技術の進歩とともに、その役割には変化も求められましたが、馬と人の特別な関係そのものは、連綿と続いています。地球上の「ウマ科」の生き物は、DNA分析の結果、野生の馬である「和名:蒙古野馬(モウコノウマ)」なども含め、全て家畜馬の子孫だと科学専門誌などでも報告されています。人が関わり続けてきた仲間=馬は全て、人が生みだしたものなのです。 人が馬にそこまで関わってきたのは、きっと、深い感情的繋がりや相互利益を形成できる数少ない動物、友だから、なのかもしれません。 しかしながら、今の日本では、馬と人が交流できる場所・機会は、ごくごく限られており、馬が身近な存在ではなくなっています。 その一方で、国内で繋養されている馬の6割から7割がサラブレッドという日本の特殊な状況(諸外国と比べて)では、サラブレッドの活用が馬と人との関係性を伝えていくための鍵となります。 すなわち、乗馬、馬介在活動など、あらゆる機会を通じて、「サラブレッドにできること全てに価値を見出す」ことができれば…私たちはそのような思いで、活動を続けていきたいと願っています。
オールド・フレンズ・ジャパン ▶︎ https://oldfriendsjapan.com/ja/
Photo by 柏倉 陽介 Yosuke Kashiwakura ▶︎ https://www.yosukekashiwakura.com/