JRA 馬術&引退競走馬

馬術(日本)
ツシマブーツファクトリーを訪ねて

日本産の完全オーダーメイド乗馬用ブーツ(長靴ちょうか)を年間700足ほど作り続けているツシマブーツファクトリー。

初心者からオリンピアンまで、数多くの「ライダー」を魅了する理由を探るべく、奈良に構える工場にお邪魔し、代表の對馬つしま達也さんにお話を伺ってきました。長靴の正しい扱い方も教えていただいたので、乗馬初心者の方も必読です!

ー 對馬さんはどうしてこのお仕事に就かれることとなったのですか?

私は馬術のスポーツ推薦で大学に入ったのですが、卒業後のことを考えたとき、乗馬経験とファッションへの興味を両方活かしたいと思ったのがきっかけです。

ちょうどその頃靴職人がちょっとしたブームで何人か雑誌などで特集されているのを見かけて、こんな仕事をしてみたいなと思ったんですよね。

それで卒業を待たずに東京の靴屋さんに就職しました。

最初は何も分からないので流れ作業の簡単な部分しか任せてもらえませんでしたがそれでも楽しかったです。ただ、手応えを感じ始めたら、まだ馬を続けている同級生たちへ作れるようになりたいという思いが強くなり、長靴専門メーカーの「フセ」に転職しました。

ー その後ここツシマブーツファクトリーを立ち上げられたのでしょうか?

実はここは私が10年従業員として働いた「フセ」を今から10年ほど前に引き継いだ場所なんです。

新しい名にはなったものの、工房や製造方法などなるべく「フセ」時代から変わらないように続けてきて、当時働いていた職人さんは今も若い子たちと一緒に現役で働いています。「フセ」が創業1975年なので、そこから考えると今年で50年となりますね。ここ奈良の工房だけでは手狭になってしまったので、兵庫県でも作業できる場を作って2拠点で製作を行なっています。

ー 国内の長靴生産数としては現在ツシマさんが1番だと聞きましたがその魅力はなんだと思いますか?

まずは完全オーダー制の手作りということでしょうか。

私たちはお客さまの足を必ず採寸し、それぞれの方の形に合ったものを作っています。

でも実は、オーダーのやり取りの際、足のサイズを測るということと同じくらい大切なのはどんなブーツが欲しいかを明確にすること。

例えば馬場馬術を始めたばかりの方がカッコよく見せたいからと硬い長靴を履くと馬がまったく動かなくなってしまう。

これは靴作りをいくら勉強してきていても、馬に乗ったことがない人では分からないことなんですよね。

ただお客さまの意見やイメージを聞いてそのまま作るのではなく、その方の乗馬のレベルや乗り方などを考慮し、求めている履き心地を読み取って作る。

それができるのは私が乗馬経験者だからこそだと自負しています。

ー 輸入ものと違って、そういった細かなコミュニケーションを直接取れるというのも嬉しいですね。

正直なところ、最近は輸入ものの既製ブーツも日本人の足に合わせたサイズ感やシルエットを変えて作っているところもあるようですし、以前と比べたら値段も下がってきてはいます。

でもやはり、ぴったりと気持ちの良いサイズ感と自分の乗馬スタイルに合った履き心地という両方の完成度は、直接フルオーダーできる国産ブーツに勝るものはないと思います。ハードに使うものだからこそメンテナンスに気軽に出せることも魅力ではないでしょうか。

ー せっかく素敵に作っていただいた自分だけのブーツ、長く使うためにすると良いことはありますか?

毎回汚れを落として保湿することが何よりも大切です。汚れ具合にもよりますが基本は水拭き。内側が汗で濡れてしまったときも水拭きがいいと思います。

ドロドロになってしまった日は鞍用のサドルソープをぬるま湯で泡だてて丸洗いし、保湿して乾くのを待ってからブラシをかけてみてください。ただ、毎回丸洗いをするのはあまりよくないので要注意です。

保湿は鞍用ではなく、靴用のものを。私たちはコロニルのシュプリームクリームデラックスというものを好んで使っています。

あとは、足首部分にだけでもシューキーパーを入れて保管しておけば大丈夫だと思います。また、防水スプレーについてもよく聞かれるのですが、馬に触れる筒の部分は滑ってしまうので避け、靴部分だけにかけるのがおすすめです。

ー メンテナンスに出すタイミングや替え時はいつ頃と考えておけばよいですか?

基本的には壊れていなければメンテナンスには出さなくていいと思います。壊れる前が1番乗りやすい履き心地になっているなんていうことも結構あるので(笑)。

替え時に関しては、既製品のものをお持ちであれば、穴があいてきそうになったら替えた方がいいですね。

私たちのブーツに関しては、すべてのパーツが交換できるので、メンテナンスに出していただければ大丈夫。乗る数で大きく変わるのですが、例えば毎日5,6鞍乗っている方で1年に一足。そこまで頻繁に履いていなければ、途中ファスナー交換などは必要になってくるものの、5年10年と履き続けられると思います。

ー これから実際にオーダーさせていただくのですが、どのような選択肢があるのでしょうか?

まずは革を選んでもらいます。好みの色や柔らかさ、艶感などがポイントですね。

その後はデザイン。

つま先はストレートチップの他に、強度のあがるウィングチップ、飾り穴のついたメダリオンが選べます。

浮腫みやすい、太ったり痩せたりしやすいという方には調整ができるレースアップが人気です。選手の中にはこのデザインと同じようにして欲しいと海外で撮ってきた写真を持ってくる方もいるのですが、その一枚だけでは分からない色々なことを頭の中で解体しながら作っていくことにワクワクしますね。

ー 馬場馬術用と障害馬術用では何か大きく変わることがありますか?

馬場馬術用と障害馬術用の違いは革の硬さの調整で行います。

革自体の硬さということもありますが、馬場の場合、中に芯を入れ、さらにそれを硬化剤で固めるんです。

基本的には馬場の場合、しっかりとかかとを下げた綺麗な乗り方ができていると、足の位置が決まってくるので硬い方が支えになる部分もあり、自然と馬にまとわりついた感覚になるので脚を一生懸命使わなくても乗ることができます。

逆に障害はふくらはぎを使って乗っているイメージなので硬いとやりにくいと感じやすく、ふくらはぎで押している感覚が欲しいので柔らかさが必要という方が多いですね。

オーダーブーツができるまで

普段は完全分業制のツシマブーツですが、今回は特別にオーダーから完成までの工程をすべて對馬さんによる手作業で見せていただきました。

1. オーダーを受ける

革選び、デザインの要望を聞き採寸。足全体の形やふくらはぎ、足首の太さを測ります。段々馴染んでいっても足が綺麗に長く見えることを考慮し、通常足の長さから1センチくらい長く製作。乗り手の方のレベルや乗り方によって、アドバイスも行います。競技会での出店や乗馬クラブのオーダー会などで注文が可能。

2. 型紙をつくる

採寸したサイズをもとに各パーツを革に下書きしていく。

3. 革を裁断する

革を切り出した後、これまでの経験をもとにたくさんの抜き型の中から形に合うものを選び出して組み合わせ、片足で7つほどのパーツに裁断していく。裁断機は「フセ」初期時代から使っている昭和51年製。

4. 縫製する

立体的に縫いやすくなるようにそれぞれのパーツの端を裏だけカットして透きを作ってからゴム糊で糊付けし、叩いて付け合わせた後にミシンで縫っていく。このとき、目指す硬さに合わせて芯を作ったり、硬化剤を入れて固めたりなどの作業も行う。

5. 底付けする

靴底をつける。長靴の靴底は土や砂に触れて壊れやすい部分なので乗馬用に作られていることが大切。縫い目の穴があると水分が中敷きまで上がってしまうので、早々に劣化してしまう。ツシマでは乗馬用としてはベストな、ゴム底を糊で圧着する製法を採用。

6. ブロッキング

脚部のサイズを木型でクセづける。脚部全体のサイズを合わせる、乗馬ブーツの大切な工程。機械で形成するところも多いがハンドブロッキングで行うことでより履く人の脚に合うシルエットに細かく調整ができる。

7. 完成

オーダーから約2〜3ヶ月ほどで完成!

指定の住所または通っている乗馬クラブへお届け。

“丁寧に作っているので良くて当たり前だとは思いつつも、数字だけでない経験値で調整している部分も多いので、渡すまではきちんと収まるか不安があります。だから届いて数日しても何も連絡がないというのが、1番嬉しいですね、問題がなかったということなので(笑)。”

万が一、サイズ感が合わなかった場合などはゼロから作り直してしまうこともあるそう。

編集後記:オーダーブーツを作ってみて

実はこれまでセミオーダーの輸入ものを使っていたのですがフルオーダーで作っていただくのは初めて!取材を通して對馬さんの素敵なお人柄に触れたことで、ブーツの完成が一層楽しみになっていました。
届いたブーツへ早速足を入れてみたら最初から馴染みがよくしっくりとくる履き心地で、ここまで違うものかと感動しています。
また、なかなか素敵な拍車ベルトを見つけられずにいた私にとって、ブーツと同じ革でベルトをオーダーできるというのもとても嬉しいサービス!
これからの乗馬ライフが更に楽しく広がっていきそうです。

今回オーダーしたブーツ / キャメルカラーの柔らかめの革 ストレートチップ

取材協力先 ▶︎ ツシマブーツファクトリー

Written by

白澤 貴子 Takako Shirasawa

10代からファッション誌制作に携わり、フランスで培われた独自のセンスと共に、現在は広告媒体やドレス、ジュエリーのクリエイティブディレクション、ショートストーリーやコラム執筆の他、アパレルや一般企業のブランディングアドバイザー、新規ブランドの立ち上げなど多方面で活躍。 趣味は乗馬。馬場1級の資格を持ち、国内外様々な山や海岸を全速力で駆け抜けている。外乗にお連れする会員制クラブ Vestiaire des cavaliers主宰。Tokyo equestrian festival組織委員。