JRA 馬術&引退競走馬

引退競走馬(オランダ) フェザーライト・ホースマンシップ

イヴェット・ブロケシュさん

イヴェット・ブロケシュさんとの インタビュー

2年ほど前でしょか?イヴェットさんのインスタグラムを偶然目にして以来、馬たちの穏やかな表情と彼女の笑顔に惹かれ、彼女独自のトレーニング方法に興味を持ち彼女のオンライン・アカデミーで学ぶことにしてみました。彼女はアカデミーの中で馬のこと、トレーニングの原理原則、ケーススタディなどをわかりやすく、丁寧にほんとうに丁寧に話してくれています。

私は彼女のいくつかの言葉にハッとさせられ、馬との付き合い方を改めて考えるきっかけとなりました。それは彼女と馬がお互いに敬意をもって話し、お互いの言葉に耳を傾ける「対等な関係」に見えた事。そして、馬と接する時の彼女のポジティブな雰囲気。

私は難しい顔をして馬に乗るのをやめました。

「いつか直接お話したい」「日本の皆さんに彼女を紹介したい」との思いから今回、思い切ってイヴェットさんにインタビュー依頼のメールを送ったところ、幸運にもお話しを聞かせていただけることになりました。

お忙しい中、お時間を割いてくださったことを、この場を借りてお礼申し上げます。オンラインではありましたが、実際にお会いした彼女は、気さくで可愛らしくとても素敵な方でした。

イヴェット・ブロケシュ / Yvet Blokesch

イヴェット・ブロケッシュはオランダ出身の若手のホースウーマン。彼女は独自のトレーニング方法を開発し、フェザーライト・ホースマンシップという名前で活動している。彼女のインスタグラムのフォロワーは25万人を超えており、トレーニングの依頼が後を絶たないという(現在個別のトレーニングの受け入れは中止しています。)

彼女はトラブルやトラウマ抱えた馬の調教と若馬の育成を得意としており、困難に直面し特別な助けを必要としている馬、いわゆる「問題馬」(イヴェットは「特別な馬」と呼ぶ)へ絶大な愛情を持つ。彼女は「馬にとって世界をより良い場所にしたい」と話す。

Yasuko

はじめに、あなたが馬と関わるようになったきっかけを教えてください。

Yvet:

たしか4歳ぐらいだったかしら?祖父母の家のお隣でシェットランドポニーが飼われていたの。祖父母に「柵の中へ入っちゃいけないよ」と言われていたのですが、どうしてもポニーたちに会いたくて、祖父母が見ていない間にポニーたちの所へ行っていたわ。それが私と馬との関わりのはじまり。それから両親にお願いし続けて、5歳のときやっと週に一度乗馬スクールへ通わせてもらえるようになったの。

私にとって乗馬スクールに通うのは乗馬を学ぶ為というより馬と触れ合うためだったわ。そして、9歳の時、近隣で馬を飼っているお家を見つけては「私に馬の世話をさせてほしい」とお願いして回ったけど、子供に馬のお世話をさせてくれる人はなかなかいなかった。

でも、ついに、シェットランドポニーとハフリンガーを飼っていたある女性が私にその馬たちのお世話をさせてくれることになったの。そのハフリンガーがなかなか難しい馬で、誰も乗ることができなかった。その馬と関わった事が私のトレーナーとしてのキャリアの原点ね。そのハフリンガーを困難から助け出す為にたくさん失敗してたくさん考えて新しい方法や考え方を模索したわ。

Yasuko

あなたの会社でもある「フェザーライト・ホースマンシップ」を設立するきっかけは何だったのですか?

Yvet:

小さい頃から馬が大好きで馬の仕事がしたかったけど、両親の希望もあって普通に学校に行って、大学を卒業したわ。でもやっぱり馬以外の事をしたいとは思えなくて、大学卒業後イギリスにある馬のレスキュー・センターに就職したの。もうオランダには帰らないつもりでね。

でもね、そのセンターの仕事は私の思っていたものとは違っていたの。

馬と過ごす時間が本当に少なかったし、馬との関わり方も私が心地よいと思えるものではなかった。がっかりしてオランダに帰った後、自分で馬のトレーニングサービスをはじめることにしたの。はじめは、無料のレッスンや調教を提供したしチラシもたくさん配ったわ。

Yasuko

「フェザーライト・ホースマンシップ」の名前の由来は?

Yvet:

可能な限り優しく、「羽のように軽い」タッチで馬とコミュニケーションがとれるようになる事。それが私の馬とのトレーニングの目標=ゴールなの。だから「フェザーライト」。

Yasuko

なぜ、ソーシャルメディアやオンライン・アカデミーであなたの馬のトレーニング哲学を広めているのですか?

Yvet:

たくさんの問題を抱えた馬と関わってきて、そのほとんどの場合、馬に問題があるわけではない事に気づいたの。馬にとってより良い世界にする為には、馬に関わる人に正しく馬を理解してもらう必要がある。それで、オンライン・アカデミーをはじめたの。

馬の為にこれまでとは違った馬への接し方など、私のアイデアや知識を人々にシェアする事で、少しでも問題が起こらないようにする為にね。

Yasuko

日本でも馬との接し方の理解はまだまだ広めていかないと。道のりは長く続きそうです。あなたにとってホースマンシップとは何ですか?

Yvet:

馬が一緒にいて、ハッピーで安全を感じられる人、馬が一緒ににいたいと思ってもらえるような人になる事かな。

Yasuko

なるほど!だから、あなたと一緒にいる馬たちもそう思うようなるのですね。日本で、もっとあなたのトレーニング哲学を知ってもらいたいです。ソーシャルメディアやオンライン・アカデミーに日本からのフォロワーはいますか?

Yvet:

オンライン・アカデミーには多くはないけど、日本の方もいらっしゃいました。インスタグラムのフォロワー上位10か国に日本はなかったわ。

Yasuko

話は変わって、これまで馬術競技に出場したことや携わったことはありますか?

Yvet:

私はウエスタン・ガールだったのよ。バリバリのウエスタン競技をやっていたわけではないけれど、ウエスタン・ドレッサージュをやっていたわ。

その後、ウィル・ロジャースの厩舎で馬房を借りるようになって、彼もウエスタン・スタイルからドレッサージュ・スタイルにした転向した人だったから、彼に影響されたのもあって今は、ドレッサージュ・スタイルの競技にも出場しているわ。

Yasuko

オンライン・アカデミーであなたの騎乗姿を拝見しましたが、それはとても美しかったです。どなたか馬場馬術のトレーナーに習っているのですか?

Yvet:

実は馬場馬術のトレーナーに習った事はほとんどないのよ。ウィル・ロジャースの奥様のアナに少し習ったぐらいかしら。

トラディショナルな馬場馬術は、私のトレーニングスタイルとは少し違う気がしてあえてレッスンを受けていないんです。

Yasuko

いままで様々な品種の馬を調教してきたと思いますが、品種によって反応の違いはありますか?

Yvet:

もちろん、サラブレッド、ウォームブラッド、ポニーなど全て違う。

でも、私の馬へのアプローチは変わらないの、個々の馬の性格や経てきた経験などを踏まえて必要な助けをする。それだけね。

Yasuko

競馬を開催する世界中の国で、現役引退後のサラブレッドを乗用馬として活用する取り組みが盛んに行われており、より良いリトレーニング方法が模索されています。私自身もこの取り組みには頭をかかえています。これまでサラブレッドと関わったことはありますか?

Yvet:

はい。元競走馬=サラブレッドと関わった事があります。現役競走馬の調教をしたことはないわよ(笑)サラブレッドのリホーミングなどを取り組まれている方がいることも知っているわ。

実は、2週間前「動かない」という問題を抱えた元競走馬のトレーニングの為に、ハンガリーに行っていたの。そこでオーナーと共に2日間のセッションを行ったわ。

Yasuko

偶然にも2週間前にサラブレッドと関わっていたとは!嬉しい驚きです。

日本ではサラブレッドを馬術競技に使いますが、テンションが上がりやすく繊細な気質を持つ馬が多くいます。そして、それが調教の課題となる事があります。このような馬のトレーニングの秘訣はありますか?

Yvet:

テンションが上がりやすかったり、何かの理由で緊張して身体が固くなったり、どうしたらよいか分からず不安になっている馬のトレーニングする場合、馬の内面と身体がリラックスできるようにします。

馬が内面で何を感じて経験しているのか、馬が訴えていることに耳を傾け、馬の精神状態を理解し、馬の気持ちに触れ「気持ちの繋がり」を築くこと。それが馬の身体のポジティブな変化(リラックス)につながっていきます。

私たちの多くは、問題を解決してくれるテクニックを求めます。テクニックを身につければ、外見的な問題はある程度解決できるかもしれませんが、テクニックだけに注目すると馬に何を「させるか」になります。それは人のためにすることであって、馬のためにすることではありません。

本当の変化を生むには、馬が不安になっている状況に対して私たちが馬の「気持ちを変える」手助けができるかどうかです。

Yasuko

最後に、馬を愛するすべての人に伝えたいメッセージをお願いします。

Yvet:

Let’s change the way we approach horses, instead of “getting them to do what we want”, Let’s become the person they want to be with and feel happy with!

馬を「思い通りに動かす」のではなく、馬が「一緒にいたい」「一緒にいて幸せだ」と思えるような存在になりましょう!

Yvet Blokesch ▶︎ https://www.instagram.com/featherlighthorsemanship/

Written by

澤井 靖子 Yasuko Sawai

2006 年ダーレー・ジャパン・ファーム(有)入社、繁殖部門に従事。 2015 年より日本でのゴドルフィン リホーミング プログラムや 現役引退競走馬に関する取り組み全般を担当。 2022 年より岡山県真庭市にあるオールド・フレンズ・ジャパンで 引退競走馬たちとの共生を目指し普及活動を行う。