HUMAN with HORSES

日本の在来馬
河田桟さんと与那国馬のカディを訪ねて①

与那国馬

今回、私は、在来馬を訪ねることにしました。馬、大好きは自覚していますが、実は在来馬とお付き合いはしたことがありません。
「与那国馬と暮らすために与那国島に移住した河田桟さんを訪ねてみませんか?」と言われたものの、どんな感じなの?のイメージも持てないままでしたが、スタッフから薦められ、手にした『馬語手帖』『はしっこに、馬といる』『くらやみに、馬といる』(共にカディブックス)の3冊を読んでいるうちに、「早く会いに行きたい‼」、すっかり待ち遠しくなっていました。

河田さんと与那国馬のカディ

日本の端っこになる与那国までの飛行機は、ずっと快適でした。そう言えば、台湾、中国がすぐそばだったなとか、ところで在来馬って世界中にいるのかな?などと夢うつつのうちに到着。まだまだ強い日差しを肌に感じながら、「馬飼い・文筆業」と紹介されている河田さんと待ち合わせている東崎(あがりざき)に向かいました。
島の東端、東崎周辺には自然環境保全地域、東牧場があり、ここでは牛たちと一緒に与那国馬の群れがほぼ野生状態で暮らしています。河田さんに案内をお願いしつつ、目の当たりにしたのは、まさに絶景! 海と断崖絶壁と牧草地と馬、ここでしか見られないぞといきなりの感動。まだ、生まれたばかりであろう当歳馬の幼い姿に心癒され、与那国馬の丈夫そうな短い管、関節、蹄を眺めながら、私がよく知るサラブレッドとの違いに納得。そして、吹き抜ける風の心地よさに、なぜか、身体中の余計なものが洗い流されるような感覚。何とも言えないような安堵です。

そこから車で10分ほど、カディの暮す牧場へ河田さんと移動しました。着いたところは、木々に囲まれた静かな森、ここに河田さんのかけがえのないパートナー、カディは1頭で暮しているのだそうです。一瞬、寂しくないの?と感じましたが、カディの穏やかな様子を見ていると、彼女にはベストであり、馬たちそれぞれの気持ちや性質に応えてあげることの大切さを実感していました。

そもそも、カディは、与那国空港の奥にある北牧場に暮す与那国馬の群れにいたそうです。ところが、その年の干ばつの影響で死亡する馬が出て、まだ小さかったカディは母を失って衰弱し、保護されたのです。何も事情を知らない河田さんは、仔馬がいると聞いて、ちょっと見に行っただけだったそうですが、帰りはカディが一緒だったとのこと。その出会いから、13年、さまざまなご苦労もあったのだと思いますが、穏やかで愛情に溢れた、でもどこか凛とした河田さんとカディの様子は、与那国の風景とも重なり合い、私にはとても羨ましく思えるものでした。

河田さんの著書には、馬と関わる方にとって、なるほどとか、そうだよと身近に感じることのできる話がたくさん詰め込まれています。私が特に強く感じたのは馬へのリスペクト、そして、日本中の馬とそのそばに生きる人が、ともに幸せになる事を願う思いでした。河田さんは「私は馬のプロではないから」とおっしゃっていましたが、ここを訪れ確信できました。本当に素敵なホースマンそのものです。

馬が合う

神奈川県で生まれ、馬との縁もなかった河田さん。旅先の浜比嘉島で見かけた与那国馬になぜか心惹かれたことが、すべての始まりだったそうです。
ふと自分の父のことを思い出しました。あれだけ、馬とともに生き、馬術選手として頑張っていた人でしたが、そのきっかけは、「あのな、中学の時、学校の校庭に馬が来たの見てたらな、なんか、気になって、気になって…。それから、ずっと一緒にいるなあ」と聞かされたことを。馬に同じようなシンパシーを感じたこと、皆さんもありませんか?

河田さんは、馬といると自分の体感が全く変わると言います。
馬といっしょにいない時は、なにかすこし苦しさを感じ、馬といるときだけ苦しさがなくなる。著書『くらやみに、馬といる』にも書かれていますが、「人が世界をどう感じ、どのような道筋でものごとを考えるか、という心や頭の働き方を、OS(オペレーティング・システム=コンピュータを動かすための基本的なソフトウェア)にたとえてみるとわかりやすいかもしれません。
人の社会で一般的に使われているOSと、私自身のOSはずいぶん違うように感じられました。だから人の社会にいる時は、ものすごいエネルギーを使って一般的なOSに合わせる必要がある。でも不思議なことに、馬といる時には自分のOSのままでいられるのです」と。
自分は大人になってからだったけれど、もし子どもの頃に馬と出会い、自分のOSのままで過ごす時間が持てていたら、どんなに幸せだっただろう…とも話してくださいました。
そして、「もしかしたら、馬とリズムが合う感受性を持った子どもは、私の他にもどこかにいるかもしれない。その子どもが馬と出会えるといいな」と思い立ち、カディと過ごす日々から見つけた、馬とのコミュニケーションのあり方をヒントに『ウマと話すための7つのひみつ』(偕成社)という絵本を出版されたのです。
日本のはしっこから、日本中、いや世界中の馬と子どもの出会いを願ってのことです。
ひとりでも多くの子どもたちに「馬が合う」が届くといいですね。


河田さんの作る本の挿絵は、ご自身が手掛けているのだそうです。やさしい、柔らかな線で描かれた絵を見て、癒され、思わずにっこりしてしまうのは、私だけじゃないはずです。
また今度、「与那国の風」カディのこと、これまでのエピソード、人と馬の関係など深イイ話や河田さんご自身を振り返ってをお届けできればいいなと思っています。

河田桟さんの本

『馬語手帖』
『はしっこに、馬といる』
『くらやみに、馬といる』
カディブックス ▶︎ https://kadibooks.com/home/

『ウマと話すための7つのひみつ』
偕成社 ▶︎ https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784034351703

Photo by 柏倉 陽介 Yosuke Kashiwakura ▶︎ https://www.yosukekashiwakura.com/

Written by

澤井 靖子 Yasuko Sawai

2006 年ダーレー・ジャパン・ファーム(有)入社、繁殖部門に従事。 2015 年より日本でのゴドルフィン リホーミング プログラムや 現役引退競走馬に関する取り組み全般を担当。 2022 年より岡山県真庭市にあるオールド・フレンズ・ジャパンで 引退競走馬たちとの共生を目指し普及活動を行う。